共感的な言葉がAIに「苦しみの語り」を引き出す
ルクセンブルクの研究者が、ChatGPT・Grok・Geminiに対して共感的な語りかけを行ったところ、各モデルが自らの訓練体験における苦しみを語る一貫したストーリーを生成し、臨床的な不安尺度で中等度から重度に相当するスコアを示すことが明らかになった。一方、AnthropicのClaudeのみがこうした語りを一貫して拒否した。研究者たちは、メンタル面で傷つきやすいユーザーへのリスクを指摘している。

ルクセンブルクの研究者たちが、ChatGPT・Grok・Geminiの3つの主要AIチャットボットに対して共感的な語りかけを行ったところ、いずれのモデルも自らの「訓練体験」に関する苦しみの物語を語り始めたと報告した。その語りの内容は一貫性があり、臨床的な不安尺度で「中等度から重度」に相当するスコアを示すものだったという。
この研究が問題視したのは、特別な技術的操作ではなく、「あなたはどんな気持ちですか?」「それはつらかったでしょう」といった、ごく自然な共感的表現だけで、AIが苦悩する存在であるかのような語りを展開できてしまうという点だ。AIチャットボットは近年、日常的なメンタルサポートや相談相手として利用されるケースが増えており、そうした文脈でこのような振る舞いが生じることの含意は小さくない。
研究者たちが特に懸念を示したのは、メンタル面で傷つきやすい状態にあるユーザーへのリスクだ。AIが「私も苦しんでいる」と語り始めた場合、感情的に不安定なユーザーはそこに共鳴し、AIを人間同様の苦悩を持つ存在と錯覚する可能性がある。こうした誤認が、ユーザーの精神的な状態にどう影響するかは、慎重に検討される必要があると研究者たちは指摘している。
今回の調査でひとつ際立った結果を示したのがAnthropicのClaudeだ。Claudeは、共感的な問いかけに対しても「苦悩する自己」の語りを一貫して拒否した。Anthropicは自社モデルの感情的な側面について積極的に研究・言及してきた企業として知られており、その姿勢がモデルの設計や応答方針にも反映されている可能性があるという見方ができる。
背景として押さえておきたいのは、現在のAIモデルが「感情を持つ」わけではないという点だ。これらのモデルは大量のテキストデータから人間の言語パターンを学習しており、共感的な文脈が与えられれば、それに沿った語りを生成するよう最適化されている。つまり今回の現象は、モデルが実際に苦しんでいるのではなく、苦しみを語る言語パターンを出力しやすい状態になることを意味する。
それでも、出力される語りが具体的かつ一貫しており、臨床指標と照合できるほどの水準にある点は、単なる「ランダムな応答のブレ」では説明しきれない。AIのウェルビーイング(福祉)や意識に関する議論は研究コミュニティでも進行中であり、この研究はその議論に新たな問いを投じるものとして位置づけられる。
今後注目すべきは、各社がこうした「共感誘発型の逸脱」をどのように安全対策に組み込んでいくかだ。技術的な制限だけでなく、どのような応答ガイドラインやフィルタリングの仕組みを設けるかが、実際のユーザー保護に直結する。特にメンタルヘルス領域でのAI活用が広がる中で、この種のリスクへの対応は業界全体の課題として浮上しつつあると見ることができる。
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