Visa、脆弱性を自動修正するセキュリティAIを公開
Visaは2025年8月、ソフトウェアの脆弱性を自動検出・修正・検証するセキュリティAIツール「VVAH」をオープンソースで公開した。人間のレビューなしにソースコードを書き換えるデフォルト設定が特徴で、GitHubでは公開から約2カ月で2,300スターを超えた。一方、AIエージェントが承認なしに実環境を変更する設計に対しては、セキュリティ専門家から懸念の声も上がっている。

Visaは、ソフトウェアの脆弱性を検出するだけでなく、修正コードの作成と検証まで自動で行うセキュリティツール「VVAH(Visa Vulnerability Agentic Harness)」をオープンソースとして公開した。このツールは11段階のプロセスを自動で実行し、人間のレビューなしに対象リポジトリのソースコードを直接書き換える設定がデフォルトになっている。検知にとどめるには、オペレーター側が明示的に制限をかける必要がある。
VVAHはもともと、VisaがAI企業Anthropicの「Project Glasswing」に参加したことを起点に開発された。このプロジェクトでは、AnthropicのAIモデル「Claude Mythos」をVisaの決済ネットワークに向け、個々には軽微に見える複数の弱点を連鎖させて実際に機能する攻撃手法を構築できることを確認した。Visaの技術部門社長ラジャット・タネジャ氏はこの経験を振り返り、「VVAHは当初Mythosのみを使っており、そこで私たちはこの新世代モデルが持つ意味的推論の力を実感した」と述べている。
ツールはGitHubに6月に公開され、7月20日時点で595スター・97フォークだったが、8月25日時点では2,300スターを超え、フォーク数も300を上回った。タネジャ氏は、リポジトリのクローン率(訪問者に対するクローン実行の割合)が約9%に達していると説明し、「非常に知名度の高い企業がこのツールを使い始めている」と述べた。なお、リポジトリは外部からのコード貢献を現時点では受け付けていない。
今回の公開にあわせて機能も拡張された。従来は「検出・検証・報告」の3段階が中心だったのに対し、新バージョンでは「検出・検証・修正・妥当性確認・再試行」という5段階のサイクルに進化している。タネジャ氏は「修正が脆弱性を無効化できていなければ、そこで終わらず再度取り組む」と説明しており、修正の有効性をAI自身がループして確かめる設計になっている。
Visaがこのツールを無償公開した理由について、タネジャ氏は自社と自社エコシステムの保護を主目的としつつも、「サイバーセキュリティへの投資や知識が十分でない企業にとって良いことをする義務がある」という言葉を最も強い動機として挙げた。ただし、あくまでコード提供は一方向であり、採用企業のコードを書き換えるツールが逆に外部貢献を受け取ることはない構造になっている。
一方、このデフォルト設定をめぐっては、セキュリティの専門家から異論も出ている。LLMアプリケーションのリスクを整理したフレームワーク「OWASP Top 10 for LLM Applications」の共同リードを務めるスティーブ・ウィルソン氏は、AIエージェントが人間の承認なしに実環境を変更できる設計に対して懸念を示す。同氏は「モデルの外側に認可ゲートを置くべきだ。エージェントは変更案を提示できるが、自ら実行権限を与えてはならない」と述べており、自律的なコード変更がどこまで許容されるかは業界全体の課題として浮上している。
このツールが問いかけているのは、AIがセキュリティ対応の速度を大幅に上げた先にある「人間の関与をどこに残すか」という問題だ。タネジャ氏は「AIは人類の技術史上、これまでにない速さで脆弱性を発見している。新たなボトルネックは修正と、修正できたことの証明だ」と語り、人間のレビューを待つことがかえってリスクになりうると主張する。セキュリティの自動化がどの範囲まで認められるか、今後の業界標準や規制の議論に影響を与える動きと位置づけられる。
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