Runway、バグを機能に転換したAI開発の舞台裏
AIビデオ生成企業のRunwayは、VB Transform 2026において自社のモデル開発・評価・リリースのプロセスを公開した。リアルタイム映像生成で発生したバグを新機能として転換した経緯や、Excelで管理するシンプルな評価手法など、大小問わず応用可能な開発の実践知が共有された。

AIビデオ生成スタートアップのRunwayが、モデル開発の現場で直面した課題とその解決策を公開の場で明かした。VB Transform 2026において、RunwayでエンタープライズプロダクトのトップをつとめるRyan Phillips氏が登壇し、同社がどのようにAIモデルを構築・評価・リリースしているかを詳しく解説した。その内容は、自社でモデルを開発していない企業にとっても応用できる教訓が含まれているとPhillips氏は述べている。
Runwayは、汎用的な「世界モデル」の研究・開発を行うAI企業だ。同社が手がける「Runway Characters」は、AIが生成したアバターとリアルタイムで双方向のやりとりを可能にするビデオモデルで、映像生成に遅延がほぼ生じない設計になっている。Phillips氏によると、5年前にはぼやけたテキストや低フレームレートの映像を作るだけでもクリエイターが個々のフレームをつなぎ合わせる数百時間の作業が必要だったが、現在はRunwayのモデルがインタラクティブな映像をその場で生成できるという。
開発過程では思わぬ壁もあった。リアルタイム映像生成の際、AIアバターが画面中央からずれていくというバグに対し、Runwayのチームは数週間にわたって技術的な解決策を模索した。しかし最終的には、バックエンドの修正ではなく、問題を回避するフロントエンドの新機能として実装する方針に切り替え、問題を解消した。バグを「機能」に転換したこの判断は、AI開発の現場でどこまで完璧な修正にこだわり、どこで実用的な落とし所を選ぶかというトレードオフを端的に示している。
モデルの評価プロセスについても、Phillips氏は具体的な手法を紹介した。質の高い評価セットを作るには、プロダクト・デザイン・研究・営業など複数の部門が連携し、「良い生成とは何か」の定義を組織全体で統一することが重要だという。Runwayでは、チームメンバーが生成例を一緒に見ながら議論する社内ワークショップを繰り返し実施し、細部にいたる失敗パターンを共有している。
評価セットの設計では、一般的なユースケースだけでなく、極端なエッジケースにも対応する必要があると同氏は強調した。その例として、鼻がなく歯の形が特異な「Tooth」と名付けられた非人間キャラクターを使い、通常の人間の顔の構造を超えたケースでもモデルが安定した挙動を示すかを確認していることを挙げた。また、キャラクターの顔は崩れていなくても、背景のネットが変形し始めるケースなど、細かなアーティファクト(不自然な映像の乱れ)も厳格に「失敗」と判定している。
注目すべきは、これだけ先端的な開発にもかかわらず、評価の管理ツールはExcelのスプレッドシートだという点だ。チームは毎日テスト結果を記録し、出力を「軽微な失敗」「重大な失敗」に分類する。リリースの判断基準となる合格率はあらかじめ設定しておき、その基準を達成した時点でモデルを出荷するという運用をとっている。Phillips氏は「基準に達したらリリースする。それだけだ」と明言しており、恣意的な判断を排した客観的な出荷基準を設けることの重要性を示している。
一連の事例が示すのは、AI開発における「完璧主義」よりも「実用的な判断力」の重要性だ。バグの転換、組織横断的な品質定義、シンプルな評価ツールの徹底活用——いずれも特定の大企業だけが実践できる手法ではなく、規模を問わず多くの開発現場に応用できるアプローチと見ることができる。生成AIを活用したプロダクト開発が広がる中、評価と出荷判断のプロセスをいかに標準化するかは、業界全体で共通の課題になりつつある。
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